ホンダ S660 モデューロX バージョンZ 試乗!エアロダイナミクスをしっかりと具現した走り…松田秀士 | Spyder7(スパイダーセブン)

ホンダ S660 モデューロX バージョンZ 試乗!エアロダイナミクスをしっかりと具現した走り…松田秀士

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ホンダ S660 モデューロX バージョンZ
ホンダ S660 モデューロX バージョンZ 全 24 枚 拡大写真
◆S660に終止符…最後の特別仕様車をサーキットで試す

2022年3月でホンダ『S660』の生産が終了する。軽自動車でミッドシップの専用プラットフォームを設計。『ビート』の再来とまで言われ、唯一無二のホンダらしいクルマ造りで登場した本格的軽スポーツ。筆者自身、これまでにも数多く試乗し、また個人的に広報車もお借りして長いマイレージを刻んだ。思い出されるのは我が生まれ故郷・高知で開催されたデビュー試乗会。土佐湾を望む横浪黒潮ラインを軽自動車でこんなにも気持ち良く走れるものかと感動したものだ。

S660は軽自動車という枠に留めておくのはもったいない。さらに上の展開があっても良い。そうなる日が来るのを心のどこかで待ちわびていたのだが、それも夢想で終わることとなった。これは現実だから仕方がないことだ。

この度、最後の特別仕様車「モデューロX バージョンZ」の試乗会が千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された。さっそくレーシングスーツに身を包み試乗してきたのでそのレポートをお届けしよう。

ホンダ S660 モデューロX バージョンZ(右手前)、ノーマル車(左)、モデューロX用品車(中央奥)快晴のフォレストレースウェイだが、各コーナーに散水されている。滑りやすいコンディションの中でハンドリングやトラクション性能を確認するためだ。S660はコーナリング性能が高いのでドライ路面ではオンザレール。

以前、富士スピードウェイを走ったときも、楽しいのだけれどもグリップが良すぎてコーナリングスピードが高く何も起こらない。もっと速度が低くてコーナーをキツイ! と思えるようなコースで走りたいと思ったもの。群馬サイクルスポーツセンターでもステアリング握った経験があるが、あそこはベストコースだった。その点ここフォレストレースウェイは富士スピードウェイに比べればコーナーもキツイのだが、やはりサーキットゆえの路面グリップが高い。散水はモデューロX バージョンZの性格を見抜く絶好のいわゆる環境整備といえる。

◆まずはノーマル、純正アクセサリー装着車でコースへ

ホンダ S660試乗方法は1車種15分間。まずベースとなるS660で走り、次に純正アクセサリー装着車、そして最後にモデューロX バージョンZとなる。まずベース車両のS660でフォレストレースウェイを走った印象は、S660にとってベストコースともいえる。加速しながら抜けてゆく高速の第2コーナーでの速度は110km/h強といったところ。最高速を記録する裏ストレートエンドでの速度は130km/h前後。各コーナーに散水されているため、走り方によるコーナー脱出速度に速遅があるため周回ごとに若干の差があるのだ。

ホンダ S660 モデューロX純正アクセサリー装着車続いてステアリングを握るのは純正アクセサリー装着車。こちらには前後バンパー/サスキット+アルミ/アクティブスポイラーが装着されている。ここで説明しておく必要があるのはサスキットとアルミホイール。タイヤは3車とも共通の前後異径だが、2台目から装着されるアルミホイールは新開発でモデューロX バージョンZと同じモノ。説明は後述する。

5段階減衰力調整が可能なサスペンションサスキット(ダンパー+スプリング)はバネレートがF:+10%、R:+20%で、ダンパーにはモデューロXのような5段階調整機能はないが同じ減衰力キャラを持ち、設定値は最強の➄と同じ値にセットされている。ただし内部構造が若干異なるので100%同じというわけではない。サプライヤーは純正と同じショウワ製。明らかにスポーツサスの恩恵で、しっかりとした接地感があり各コーナーの脱出速度が上昇している。どちらかというとサスの強化によってステアリング操作に機敏に反応する。コーナーへの進入速度が上がっているから、リヤがブレイクするときの挙動もハッキリとしている。

ただし、修正舵にも正確に反応するのでコントロールしやすく、DSCによって確実に制御されるからスピンの心配はない。その後タイヤの熱帯びとともに少しアンダーステアーな傾向に変化。前後異径タイヤゆえのハンドリング変化だが、そこをハッキリと感じ取れる因子はサスキットと今回新採用のアルミホイールだろう。裏ストレートエンド速度は134km/hを記録。これは明らかにサス効果の現れだ。

◆明らかに速いモデューロX バージョンZ

さて、お目当てのモデューロX バージョンZに試乗する番がきた。こちらのサスキットには減衰力5段階調整可能なダンパーが装着され調整値は先ほどの車両と同じ➄にセットされている。スプリングレートも先ほどと同じ。ただしエアロが異なる。新設計のフロントバンパー(エアロ)/リヤスポイラーだ。特にフロントバンパーは床下への空気の取り込みを意識している。こちらも後述するとして、モデューロX バージョンZは我儘を言ってDSCも作動しない状態にセットしていただいた。

走りは先ほどの純正アクセサリー装着車よりも明らかに速い。裏ストレートエンド速度は137km/hオーバー!(リミッターは解除されている)。路面が渇き始めているのでできるだけ濡れた場所を通り、アクセルもややラフに扱うようにして、所々でかなりリヤスライドを誘発させているのにこの速度を記録。特に顕著だったのは最終右周りヘアピン(2速)から最終コーナーに達するまでの速度が3速で110km/hを超える。ここは上り坂となる場所だが、明らかに抵抗感のない加速を感じるのだ。DSCをOFFにしたことによるリヤスライドは大きいが、このホイールベースの割にトラクションのある滑り方だ。新設計アルミホイール

◆開発陣の真摯な姿勢が生み出したホイールとエアロ

ここで新設計ホイールのウンチクを。狙いはリヤグリップの粘り(トラクション)と前後の滑るタイミングの感知度を上げること。意識させて滑らせても確かにリヤが唐突に滑る感じがしない。前記したようにタイヤは3車とも同じヨコハマ・ネオバだ。実はホイールのリム剛性とスポーク剛性を見直している。燃費優先の空力志向のホイールはリム面積が大きくなっていて、スポーク剛性がリムのそれに優っている。つまりコーナリング中に最終的にストレスを受けて歪むのがリムに集中するというわけ。こうなると最終的なタイヤへの荷重変化がリニアに行われず、シビアな動きを誘発させてしまう。そこで製造元のエンケイの協力を経て、理想的なスポーク剛性のホイールが誕生した。つまりスポーク剛性を落としリムとの剛性最適化によってこのトラクションやハンドリングの初期及び切り足しのリニア差を実現したというわけだ。ノーマルと比較すると明らかにフィーリングが異なる。

次にエアロ。床下への空気の流れをCFDコンピューターで解析。リヤエンドまで床下空気の流れをしっかりと繋いでいることが解析画像で確認できている。ここがノーマルとの大きな違いだ。また、リヤスポイラーへのガーニーフラップ追加で吸い出し効果もアップさせている。このガーニーフラップだが実際に走らせてリフト計を装着した数値だと、160km/h有り無しでF/-5mm(-4mm):R/-7mm(-10mm) (※カッコ内はガーニー無し)、となっている。つまりリヤのリフト量がガーニー有り無しでは大きく異なり、結果リヤダウンフォースが上がっているのだ。フロントのリフト量が増えているのはリヤが下がったことによるシーソー効果によるもの。フロントのダウンフォースが減少しているわけではない。

フロントバンパーに備え付けられたエアガイドフィンまた、風洞実験でもCD値はノーマルと同じだがCL値(ダウンフォース)が増加していることが確認できているとのこと。さて、コーナリング時にフロントイン側タイヤが車体からはみ出すことでサイドから床下への乱流の進入が起こる。この流れはもろにリヤタイヤに影響を与え、リヤダウンフォースの減少を招く。そこでフロントバンパーにエアロガイドステップという出っ張りをデザインすることで、空気の流れがフロントタイヤはみ出しによって乱流することを抑制している。

モデューロX バージョンZのエアロはデザイン性だけでなく、そのエアロダイナミクスを走りにしっかりと具現している。開発陣の真摯な開発への姿勢が生み出したものといえるのだ。残念なことに既にバージョンZは売り切れたそうだ。手に入れられなかった方、この後は中古車の登場を待っていただき、その時この試乗記が参考になれば幸甚である。

松田秀士 氏
■5つ星評価
パッケージング:★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

松田秀士|レーシングドライバー/モータージャーナリスト/僧侶
成仏する直前まで元気でクルマを運転できる自分でいたい。「お浄土までぶっ飛ばせ!」をモットーに、スローエイジングという独自の健康法を実践しスーパーGT最年長55歳の現役レーサー。これまでにINDY500に4度出場し、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。専門誌等への寄稿文は分かりやすさと臨場感を伝えることを心がけている。

【ホンダ S660 モデューロX バージョンZ 試乗】エアロダイナミクスをしっかりと具現した走り…松田秀士

《松田秀士@レスポンス》

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